ムーブメント教育・療法とは?期待できる効果や実施方法について紹介

コラム

2023/12/19

 

福祉の仕事について調べていると、時折目にする「ムーブメント教育・療法」という言葉。興味はあるが詳しいことがわからないという人の為に、この記事では「ムーブメント教育・療法とは」というところから、その効果、実施方法まで、詳しく解説していきます。

 

もくじ

ムーブメント教育・療法とは

ムーブメント教育・療法の期待できる効果

ムーブメント教育・療法の実施方法

まとめ



ムーブメント教育・療法とは

1、歴史

ムーブメント教育・療法とはアメリカの神経心理学者、マリアンヌ・フロスティック氏が1970年後半から取り組んだ「動きを通した支援」を体系化したもので、小林芳文氏(横浜国立大学名誉教授、現日本ムーブメント教育・療法会会長)によって日本に紹介された、子供の全面発達を支援する教育方法の1つです。これはその後独自の発展を遂げ、就学前の親子教室、保育園、幼稚園、医療機関、小学校、特別支援学級、特別支援学校のみではなく、高齢者施設やシニアの地域活動、リハビリテーションの一環として、医療現場等でも幅広く活用されています。

 

ムーブメント教育・療法は、ピアジェの発達理論を背景に、子供が自発的に動きたくなるような遊具「ムーブメント遊具」や人的環境を上手く設定し、軽運動を通して運動能力や心理的諸機能(認知能力、問題解決力等)を育てていく「動きを通した学びの支援法」と言え、子供の自主性や自発性を尊重しておこなわれます。

 

2、特長

ムーブメント教育・療法は、遊びをベースにしていて、楽しい事や好きなことから発達を促すので、対象者の「こころ・からだ・あたま」に働きかけることができ、身体運動、感覚機能、認知機能の発達を目指すことができます。

 

使用する「ムーブメント遊具」はシンプルながら様々な素材、色、形があり、創造の幅を広げてくれますし、能力や年齢に関わらず色々な人と一緒に取り組むことで社会性の向上にも役立ちます。

 

また子供のことを知る為の「アセスメント」も確立されているので、学びの場、交流の場など多数用意されています。療育者同士のディスカッションの中で子供の捉え方、接し方を知る機会が持て、様々な場面や状況に柔軟に対応する力、子供の良さを見つける力が身に付きます。

 

 

 

ムーブメント教育・療法の期待できる効果

脳性マヒなどの肢体不自由のある子供の場合、障害の特性から成長と共に身体の変形や拘縮が進んでしまいます。その為、身体を動かして変形や拘縮を予防する必要があり、座位や立位をキープしながらの運動や遊びを日常的におこなうことが求められます。継続的におこなうのであれば、子供と支援者、更には子供たち同士で一緒に楽しめる活動を積極的に取り入れていく必要があります。

 

例えば腕の拘縮を防ぐために支援者が無理に子供の腕を伸ばそうとするよりも、子供自ら腕を伸ばすような運動を取り入れたムーブメント活動をおこなうことで、子供も楽しみながら安全に、自発的な動きを引き出すことができます。

 

家庭や学校、療育機関などでこのような取り組みを日常的におこなえば、身体の拘縮を予防すると共に、外界や遊具、物を認識する力を高めたり、それらへの関心や、一緒にムーブメント活動をおこなった人に対する子供の関心を広げることにも繋がっていきます。つまり、運動機能の維持や発達だけに焦点を当てた支援ではなく、人と関わる為に必要な言葉やコミュニケーション能力、社会性の育成までを視野に入れた支援を目指すことが可能です。

 

 

 

ムーブメント教育・療法の実施方法

ムーブメント教育・療法では様々な「ムーブメント遊具」を使って活動していきます。専用の物を購入してもいいですし、簡単に自作することも出来ます。また日用品を取り入れることも可能です。代表的なものをいくつか見ていきましょう。

 

○パラシュート:ファンタジー、コミュニケーション遊具。3〜7m程度で専用の物もある。

○ビーンズバッグ:知覚運動、数教育、認知機能遊具。お手玉で代用も可能。

○カラーロープ:動きづくり、創造的運動遊具。赤、青、黄、緑の4色で3m、10mの2種。

○プレーバンド:ストレッチ、知覚運動、精神運動遊具。柔らかく伸び縮みする。

○スカーフ:精神運動、創造的運動遊具。薄くて柔らかいナイロンの布。滞空時間が長い。

○形板:精神運動遊具。数字が書かれた四角形、三角形の板。色や形、数を学習する。

○ハットフリスビー:知覚運動、精神運動遊具。直径18㎝の布ナイロン製。

○ユランコ:感覚運動、前庭感覚刺激、コミュニケーション遊具。ハンモック的に使う。

○スペースマット:空間図形学習、認知運動遊具。ゴム製で伸縮する。片面は5色。

○フープ:知覚運動、精神運動遊具。一般的な体操遊具と同じ。大きさ、素材、色が豊富。

○スクーターボード:前庭感覚刺激遊具。厚めの板にタイヤをつけ、前後左右回転が可能。

○ハンプ:操作性遊具。厚めの帆布生地で35㎝×35㎝。容易に折りたためる。

 

この他にも、風船、新聞紙、カラーボールを使って作ったボールプール、カラーパイプ、ブロック、ジョイントマット、傘など様々な遊具をつかってムーブメント活動をおこないます。

 

とくにパラシュートやボールプールなどの活動では、子供たちが普段体験することのないようなダイナミックな揺れ刺激が味わえ、自発的に動くのが難しい子供の場合、他動的な物でも大きく影響を与えることができます。つまり、この大きな揺れ刺激の体験によって「身体意識」を育むことができるのです。

 

ただし、子供によって「揺れ刺激」に対する反応は様々です。ダイナミックな揺れを好む子供もいれば、大きな揺れだと怖がってしまう子供もいますので、その時の子供の表情や仕草など、よく観察しながらムーブメント活動をおこない、小さい揺れを好む子供には小さくてゆったりした揺れを提供するなど、一人一人に合った支援の方法を考える必要があります。

 

現在、肢体不自由特別支援学校などの療育機関では在籍すしている子供の重度重症化が進み、日常的に医療的ケアを必要とする子供の割合が増えていて、それぞれ個別の指導が重要視されてきています。ムーブメント教育・療法は小集団の中で、「動くことを学ぶ」ことと合わせ、「動きを通して学ぶ」ことを主要な目的としているので、個々の子供たちの力を育てる個別の指導と並行しておこなうことにより、小集団での活動を通して、自己意識、他者意識、社会性やコミュニケーション力を育てていくのは非常に有意義な取り組みと言うことができます。

 

 

 

まとめ

ムーブメント教育・療法について詳しく解説してきましたが、ムーブメント遊具を使って身体を動かす「遊び」の中に様々な「学び」が詰め込まれた、画期的なものだとおわかりいただけたと思います。様々な団体があり、ムーブメント活動を定期的におこなっているので、これから始める場合も参加しやすい環境にあるのが素敵ですよね。

 

子供にとっても楽しんで参加して、様々な成長体験ができる非常に有意義な活動となることは間違いありませんので、是非療育に取り入れてみてください。


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