療育における薬物療法とは?期待できる効果や実施方法、注意点について紹介

コラム

2023/12/19

 

福祉の仕事について調べていると、時折目にする「薬物療法」という治療方法。薬を使った治療ということはわかるが、もっと詳しいことを知りたい、という方の為に、この記事ではそもそも薬物療法とはというところから、その効果と実施方法、注意点まで詳しく解説していきます。

 

もくじ

薬物療法とは

薬物療法の期待できる効果

薬物療法の実施の仕方と注意点

まとめ



薬物療法とは

1、薬物療法

病気やケガを治したり、崩れてしまった身体や心のバランスを取り戻したいとき、私たちは「薬」を使うことがあり、現代ではとても身近なものです。しかし、薬は適切な状態に対して使用されなければ、有効な部分よりも「害」となる方が大きくなってしまうので、現在の対象者の状態と処方する薬が適切であるか正確に診断しなくてはならない「医学」の専門的領域になります。その為、現代の日本では人や動物の病気の診断、治療、予防に使う薬を薬事法で定め、「医薬品」と呼んでいます。このような薬、「薬物」を使って様々な症状を改善していく治療方法を「薬物療法」と言います。

 

2、療育における薬物療法

療育において薬物療法が用いられる場面は、発達障がいの症状に対する治療法の一つとして医師が判断した場合です。

 

発達障がいは症状や困りごとが表れて初めてわかる疾患で、障がいの種類や程度、性別などにより、気づかれる年齢や特長が異なります。根本から治療するのが難しいとされ、子供の特性に合わせた発達支援や環境設定、保護者がペアレントトレーニングを学ぶことによって適切な対応を覚えるなどにより、困りごとの軽減を目指します。このような対応手段の一つとして医師が適切と判断した場合、薬物療法が取り入れられます。

 

発達障がいを完全に治す薬はありませんが、症状の緩和が期待出来る薬がいくつかあります。人によって合う合わないがあり、副作用も存在するので、全ての人に必ず効果があるという物ではありませんが、医師が対象者の症状や状態を確認しながら薬物療法を行い、薬で症状が和らいでいる間に療育的支援や学習支援などを行うことで、効果を得ることができます。しかし、薬の処方は基本的に6歳以上とされており、成人には認可されていない薬もあるので、注意が必要です。

 

 

 

薬物療法の期待できる効果

発達障がいへの薬物療法は、ある程度効果が期待できるとされていますが、薬を服用する上で気をつけなくてはならないのは、発達障がいにおける薬は全て「対症療法」であるということで、発達障がいの根治が目的ではなく、症状の緩和が目的だということです。どういった症状に対して薬を服用するのか、順に見ていきましょう。

 

1、自閉スペクトラム症(ASD)

前述の通り、根治が目的の薬はありません。自閉スペクトラム症の中核となる症状は「社会性や対人関係、コミュニケーションの困難」、「行動や興味の偏り」と言ったものですが、この症状を緩和する目的で薬を使うことはなく、「癇癪」、「こだわり」、「不注意」、「多動性」、「衝動性」、「チック」、「抗うつ」、「睡眠障がい」などの関連症状の緩和に対して薬物療法を取り入れます。

 

認可されていて、比較的使用されることの多い薬は、リスパダール(リスペリドン)、エビリファイ(アリピプラゾール)などで、易刺激性症状(衝動性や癇癪、急な気分の落ち込み)に対して脳内の神経伝達物質のバランスを整え、効果が期待出来ます。

 

2、注意欠如、多動症(ADHD)

ASDと同様に根治が目的の薬はなく、「不注意」、「多動性」、「衝動性」といった症状の緩和を目的に処方します。薬の服用と並行して環境調整やソーシャルスキルのトレーニングなどを行うことによって、社会生活や学校生活での困りごとの軽減を目指します。

 

認可されていて、比較的使用されることの多い薬は中枢刺激薬であるビバンセ、コンサータ、非中枢刺激薬である、ストラテカ、インチュニブなどです。かつて同じく中枢刺激薬のリタリンが処方された時期もありましたが、現在では使われていません。

 

 

 

薬物療法の実施の仕方と注意点

では、実際の実施の仕方と注意点について、項目ごとに順に見ていきましょう。

 

1、問題行動の「原因」を見立てる

まず薬物療法を開始するに当たって、いま困っている問題行動の「原因」が何かを見立てることが重要になってきます。

 

例えば「不注意」の症状が見られる対象者でも、その症状が表れる際の環境が騒がしかったり、集中を阻害する要因が多い物だったりしたときには、環境的な要因が強い為に「不注意」の症状が表れているだけなので、ADHDに使う薬を処方しても狙った効果は得られません。

 

つまり、確認できる症状が環境整備や周囲の対応、コミュニケーション支援などによって改善が期待できるものであれば、薬物療法の必要はない訳です。

 

医師、家族、周囲の人間による見立ての共有、薬物療法の是非に関する話し合いをしっかり行わなければ、漠然とした薬物療法が継続され、対象者にとってデメリットしかないものになってしまいます。

 

2、子供にも説明をする

以前は意思が治療方針を決定し、患者はそれに従うのが一般的で、薬物療法においても医師の決定通りに患者が薬を飲む「コンプライアンス」が問題とされてきました。

 

しかし、近年の治療においては、医師が専門的知識に基づき、治療に関する情報を提供し、患者が治療方針を決定するということが一般的になり、方針への積極性の指標「アドヒアランス」という言葉もよく使われるようになってきました。

 

対象者が子供の場合、法的には保護者に決定権がありますが、保護者が決めたことに子供を全面的に従わせるのは無理があります。その為、最近では子供にも自己決定を尊重し、子供にわかる範囲で最大限の説明をして積極的な同意(アセント)を得ることが求められています。

 

「子供がわかる範囲で」というのは捉え方が様々ですが、薬の名称や病気の名前などではなく、どのような効果のある薬なのか、日常生活にどんな影響があるのか、どんな副作用があるのか、いつまで服用するのか、薬の色や形、味などをわかりやすく伝え、子供の意思を最大限反映する必要があります。

 

3、副作用のモニタリング

薬を服用することで、副作用がおきることも多々あります。採血や心電図など、本人に負担がかかる検査だけでなく、体重、脈拍、血圧、日々の様子など、家族と周りの人間の協力でしっかり観察する必要があります。特に発達障がいの子供は診察や検査が苦手だったりするので、医師と保護者でよく相談して、モニタリングが不十分にならないよう、注意していきます。

 

 

 

まとめ

発達障がいの治療は薬物療法だけで全て解決できるものではありません。子供の個性や特長、状態と環境などを見立て、本当に薬物療法が必要か判断していく必要がありますし、行動療法と環境調整との併用で効果をより高めなければなりません。導入には子供の意思確認もしっかり行い、経過観察から継続の必要の見定めも行わなければなりません。

 

しかし、活用の仕方によっては一定の効果があることも実証されていますので、子供と保護者、医師が薬物療法をおこなう目的を共有し、上手く活用していくことが重要です。

 

療育キャリアではひとりひとりの希望に合った福祉関係の仕事を紹介しています。

登録は無料で簡単に行えますので、是非お気軽にご相談ください。

 

この記事の関連記事

療育の現場における衛生対策の基本や感染症予防の方法について解説

  「福祉の仕事をしたいけど、療育現場の衛生管理ってどんな…

  「福祉の仕事をしたいけど、療育現場の衛生管理ってどんな…

療育におけるマカトンサイン(療法)とは?期待できる効果や実施方法について紹介

  福祉の仕事について調べていると、たまに目にする「マカト…

  福祉の仕事について調べていると、たまに目にする「マカト…

ムーブメント教育・療法とは?期待できる効果や実施方法について紹介

  福祉の仕事について調べていると、時折目にする「ムーブメ…

  福祉の仕事について調べていると、時折目にする「ムーブメ…

療育におけるインリアルアプローチとは?期待できる効果や実施方法について紹介

  福祉の仕事について調べていると、目にすることがある「イ…

  福祉の仕事について調べていると、目にすることがある「イ…

療育におけるソーシャルストーリーとは?期待できる効果や実施方法について紹介

  福祉の仕事について調べていると、時折目にする「ソーシャ…

  福祉の仕事について調べていると、時折目にする「ソーシャ…

療育におけるポーテージプログラムとは?期待できる効果や実施方法について紹介

  皆さん「ポーテージプログラム」という言葉をご存じですか…

  皆さん「ポーテージプログラム」という言葉をご存じですか…

療育における絵カード交換式コミュニケーションシステム(PECS)とは?期待できる効果や実施方法について紹介

  福祉の仕事を調べていると目にすることがある、絵カード交…

  福祉の仕事を調べていると目にすることがある、絵カード交…

療育における食事療法とは?期待できる効果や実施方法、注意点について紹介

  福祉の仕事について調べていると、療育分野において時折目…

  福祉の仕事について調べていると、療育分野において時折目…

新着記事

療育の現場における衛生対策の基本や感染症予防の方法について解説

  「福祉の仕事をしたいけど、療育現場の衛生管理ってどんな…

療育におけるマカトンサイン(療法)とは?期待できる効果や実施方法について紹介

  福祉の仕事について調べていると、たまに目にする「マカト…

ムーブメント教育・療法とは?期待できる効果や実施方法について紹介

  福祉の仕事について調べていると、時折目にする「ムーブメ…

療育におけるインリアルアプローチとは?期待できる効果や実施方法について紹介

  福祉の仕事について調べていると、目にすることがある「イ…

療育におけるソーシャルストーリーとは?期待できる効果や実施方法について紹介

  福祉の仕事について調べていると、時折目にする「ソーシャ…

療育におけるポーテージプログラムとは?期待できる効果や実施方法について紹介

  皆さん「ポーテージプログラム」という言葉をご存じですか…

療育における絵カード交換式コミュニケーションシステム(PECS)とは?期待できる効果や実施方法について紹介

  福祉の仕事を調べていると目にすることがある、絵カード交…

療育における食事療法とは?期待できる効果や実施方法、注意点について紹介

  福祉の仕事について調べていると、療育分野において時折目…

療育における薬物療法とは?期待できる効果や実施方法、注意点について紹介

  福祉の仕事について調べていると、時折目にする「薬物療法…

療育における箱庭療法とは?期待できる効果や実施方法について紹介

  福祉の仕事について調べていると、時折目にする「箱庭療法…

人気記事ランキング