療育におけるインリアルアプローチとは?期待できる効果や実施方法について紹介

コラム

2023/12/19

 

福祉の仕事について調べていると、目にすることがある「インリアルアプローチ」という言葉。興味はあるが、詳しいことがわからない、という人の為に、この記事では、そもそも「インリアルアプローチ」とは、というところから、期待できる効果、実施方法まで詳しく解説していきます。

 

もくじ

インリアルアプローチとは

インリアルアプローチの期待できる効果

インリアルアプローチの実施方法

まとめ



 

インリアルアプローチとは

インリアルアプローチとはINREALアプローチと表記し、Inter reactive learning and communicationの略で、言語発達に遅れのある子供の為の、言語コミュニケーションアプローチとして、1974年にコロラド大学のR.Weiss博士によって開発されました。

 

インリアルアプローチでは言葉だけでなく、視線や動作、ジェスチャーなどの身体表現もコミュニケーションの一つとして重要になってきます。一般的におこなわれている音楽療法や作業療法などの療育では大人が指導をし、子供は指導を受けるという立場的な構造になっていますが、インリアルアプローチでは大人は指導者という立場にはならず、子供が自然体でいられる環境を用意し、子供からの自発的なアクションを待ちます。

 

つまり、大人は見守り、観察、傾聴の姿勢を取ることが重要で、子供が起こしたアクションに対し、適切なリアクションを取ることが求められます。この子供が自発的なアクションを起こすまでの大人が取るべき基本姿勢は下記の「SOUL」を守る事が重要になってきます。

 

「SOUL」とは

○Silence   子供が現在の状況に慣れ、自発的に行動を始めるまで静かに見守る

○Observation 何を考えて何をしているか、よく観察する

○Understanding 子供が抱えるコミュニケーションの問題について深く理解する

○Listening 子供の言葉やサインに十分耳を傾ける

 

この基本姿勢を保ちながら、大人は下記の原則に従って子供と会話を進めていきます。

○子供の発達レベルに合わせた会話をする

○会話や遊びの主導権は子供に持たせる

○子供が自発的に行動するよう、待ち時間を取る

○子供のリズムに合わせるようにする

○会話や遊びを共有し、コミュニケーションを楽しむ

 

このように、子供の言葉とコミュニケーションの問題に目を向けるのと同時に、支援者である大人のコミュニケーションにも目を向け、援助的な言葉や関わり方が出来ているかを検討し、大人の関わり方を変えることでコミュニケーションの相互作用を変えていこうとする手法がインリアルアプローチです。

 

これらを「訓練」の時間だけでなく、日常生活に取り入れるようにしておこなえると理想的です。

 

 

 

インリアルアプローチの期待できる効果

インリアルアプローチは、子供たちの自然な発達を促進する教育方法の一つです。このアプローチでは、子供たちが自分の周りの環境と相互作用することを通じて、自発的な行動を引き出し、コミュニケーション能力を高めることを目指しています。

 

実験によると、インリアルアプローチを用いた子供たちは、自分から積極的にコミュニケーションを取るようになり、ジェスチャーや発声を使うことが増えました。これは、子供たちが既に獲得している言語をより積極的に用い、自分の意思を表現する力が強化されたことを示しています。この方法は、子供たちが自然に周囲の環境に関わりながら、自分の感じたことや考えたことを表現するためのスキルを身につけるのに役立ちます。

 

さらに、インリアルアプローチを継続的に行うことで、子供たちは言語の発達においても進歩を遂げています。たとえば、以前は1語文や2語文を主に使用していた子供たちが、このアプローチを通じて3語文を話すようになるケースが報告されています。これは、子供たちの語彙が拡大し、より複雑な文章構造を理解し使用する能力が向上したことを示しており、コミュニケーションの質の向上に寄与しています。

 

インリアルアプローチは、子供たちが自分のペースで学びながら、自然にコミュニケーション能力を高めることができる、効果的な教育手法であると言えます。

 

 

 

インリアルアプローチの実施方法

では、実際にインリアルアプローチを実施する際に大人がおこなうべきリアクションを見ていきましょう。これらは次の7つの言語心理学的技法に基づいておこなわれます。

 

1、子供の行動の真似をする(ミラリング)

例えば子供が指さしをしたら、大人も同じ方向に指をさす、手を上げたら同じように手を上げるなど、子供の行動をそのまま真似をします。

 

2、子供の発した音声や言葉を真似をする(モニタリング)

例えば子供が「うー」と唸り声をあげたら、大人も子供と視線を合わせて同じように「うー」と言う、子供が言った言葉をそのまま真似て大人も言うなどおこないます。

 

3、子供の気持や行動を言語化する(パラレルトーク)

例えば子供がおにぎりを指さしたら、「おにぎり美味しそうだね。食べてみよう。」と声をかけ、実際に食べている時も「おにぎり美味しいね」と声をかけたりします。また、子供が拍手をしているときに「パチパチだね。」などと擬音語を使ってアプローチをおこなうのもこれに当たります。

 

4、大人の気持ちや行動を言語化する(セルフトーク)

例えば「おにぎり残さず食べてくれて嬉しいな」であったり、一緒に遊ぶときに「私も滑り台をシュー!楽しいねー。」などの大人の気持ちや実際の行動を表す言葉をつけ加えます。

 

5、子供の言い間違いを正しく言い直して聞かせる(リフレクティング)

例えば子供が「シンデルラかわいい」と言ったら、「そうだねー。シンデレラかわいいね!」と正しい言葉で返します。この時に重要なのは、子供の言った言葉を否定せずに、繰り返して言う過程で正しく言い換えるようにすることです。

 

6、子供の言葉を意味的、文法的に広げて返す(エキスパンション)

例えば子供が車を見て「ぶーぶー」と言ったら、「ぶーぶー、カッコいいね!」と形容詞を付け加えたり、「ぶーぶーは人を乗せて走るんだよ。」など、意味的に、文法的に広がりを持たせます。

 

7、言葉の手本を示す(モデリング)

例えば子供が黙っておもちゃを指さした時に、「おもちゃが欲しいの?欲しい時はくださいって言ってくれたら取ってあげるから」と言って取ってあげるなど、手本となる言葉を具体的に使います。

 

インリアルアプローチではこのような7つの言語心理学的技法を用い、子供との遊びや会話の場面をビデオに録画し、その分析により、大人(支援者)と子供の関係性を確認します。遊びと会話全体の評価をおこなう「マクロ分析」と、子供とのやりとりの一部を取り出し、細かく継続的に分析する「ミクロ分析」から、両者のコミュニケーションが成立しているか、基本姿勢「SOUL」が徹底出来ているか、有効な言語心理学的技法の選定などから次の「かかわり」の目標を設定し、やり取り遊びの実践を重ねていきます。結果の分析と次の目標設定を繰り返しおこなうことによって、少しずつやりとりに改善が見られるようになっていきます。

 

 

 

まとめ

インリアルアプローチの概要と具体的な実施方法を見てきましたが、いかがでしたでしょうか。支援者の具体的な対応の仕方を変えることで、子供の自発的なコミュニケーションを促す、という考え方に基づいた支援方法でしたが、子供も「相手とコミュニケーションを取ることが楽しい」と思ってくれれば自発的に行動をするようになります。その為には、大人が無理強いや上の立場からの指導をするのではなく、子供の発達や個性に合わせた環境づくりをして、子供の自然な自発的アクションを待つ必要があります。普段のルーチンなども、ちょっとしたリアクションの変更で効果が期待できますので、是非継続的に実践してみてください。

 

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